月下独酌

 

病院の定期検診の帰りに、コンビニで発泡酒を買いました。

 

家で飲むつもりだったけれど、なんとなく今日は違うことをしたくて、家の近くの公園に向かうことにしました。

 

公園までの歩道は、足元は桜の花びらが点々と散り広がっていました。

 

それから、時間帯としては黄昏時なのだと思いますが、長袖にカーディガンを羽織る程度の服装でも、たまに吹く風に身震いすることがなくなっていました。

 

春だなあと改めて思いました。

 

 

 

 

公園につき、ベンチに座りました。

 

この公園は、桜が植っていません。

 

春だから、といって桜ばかり見ているのも、なんだかこう、季節に対して無作法なことなのかもしれませんが、桜だけではなく、植っている木に葉さえついておらず、まるで冬にみかける木のようだと思いました。

 

花も葉もないけれど、枝はしっかりと伸びている木もなんだかかっこよい。

 

李白の『月下独酌』みたいに、私は今日のお酒をこの木に相伴してもらう気持ちで缶を開けました。

 

 

缶のプルタブを開ける音も、外だとちょっと響いて、聴き馴染みの薄い音に変わって面白かったです。

 

 

外で飲むお酒は、格別に美味しい。

 

ああ、お酒が飲める体質に生まれてよかった。

 

外で飲むお酒と、新幹線の中で飲むお酒は、もうどうしたのってくらい美味しい。

 

そんなことを思いながら、ちびちびお酒を飲んでいました。

 

目の前の遊具には誰もいません。

 

よい子はもうお家に帰る時間だからですね。

 

 

 

 

 

 

そして、私はもうよい子じゃないから、こんな時間の公園にいるのだな。

 

それでも今日の私に、私なりの花丸をあげたいから、まっすぐ帰らず道草をしてる。

 

大人になったら、こんな真似もしてしまえる。

 

ああ、お酒が美味しい。

 

少し寂しい。気もするけれど。

 

 

 

そんなことを思いながら、発泡酒の缶を一口あおりました。

 

缶を口にして背をそらせば、藍色の夕空に細くて白い月が浮かんでいるのが見えました。

 

 

しなやかな春の木の枝と、深い色の空と月。

 

 

風情がある景色だなあ、と思いました。

 

多分今日の景色は、私が死ぬ時の走馬灯に出てきます。

 

やったね。楽しみ。